子供の矯正治療(小児矯正)とは?大人との違いと「顎の成長」の重要性
小児矯正を始めるのに「最適な時期」と年齢の目安(第1期と第2期の違い)
お子様の乳歯が抜け、大人の歯(永久歯)が生え始めると、「うちの子、歯並びがガタガタかもしれない」「受け口や出っ歯になっていないか心配」と不安を抱える親御さんは非常に多くいらっしゃいます。日本小児歯科学会や日本矯正歯科学会の見解によると、子供の矯正治療(小児矯正)は、顎(あご)の骨がダイナミックに成長している時期にしかできない、非常に特殊で重要な治療です。大人の矯正治療が「生え揃った歯を動かして綺麗に並べる」ことを目的とするのに対し、小児矯正は「これから生えてくる永久歯が綺麗に並ぶための『土台(顎の骨)』を正しい大きさに広げて整える」ことを最大の目的としています。この小児矯正は、大きく分けて以下の2つのステップ(時期)で進行します。
- 第1期治療(およそ6歳〜10歳頃):乳歯と永久歯が混ざっている時期に行う「顎の骨格の成長コントロール」
- 第2期治療(およそ12歳以降):永久歯が生え揃った後に行う「歯並びと噛み合わせの最終的な微調整」
- 最適なスタート時期は「前歯が生え変わる6〜8歳頃」が多いが、症状(受け口など)によっては3〜4歳から始めるべきケースもある
小児矯正を始めるのに「最も適した時期」は、お子様の顎の成長段階や歯並びの症状によって大きく異なりますが、一般的には上下の前歯4本が生え変わり、6歳臼歯(最初の永久歯の奥歯)が生えてくる「6歳〜8歳頃(小学校低学年)」に第1期治療をスタートさせるのが理想的だと言われています。この時期は顎の骨がまだ柔らかく、成長のピークを迎える前であるため、専用の装置を使って顎の幅を横に広げたり、前後のバランスを整えたりする「骨格へのアプローチ」が非常に効果的に行えるからです。一方で、下の前歯が上の前歯より前に出ている「受け口(反対咬合)」などの骨格的なズレが顕著なケースでは、上顎の成長を促すために3〜4歳(乳歯列期)という早い段階から治療介入が推奨されることもあります。「いつから始めるべきか」の正解は一人ひとりのお口の中の状況によって異なるため、「永久歯がきれいに生えるスペースがないかも」「噛み合わせが逆になっている」と少しでも気になった時点で、まずは専門知識を持つ歯科医師のカウンセリングを受けることが、タイミングを逃さないための最善の行動となります。
顎の成長を利用してスペースを作る!小児矯正の3つの大きなメリット
「どうせ大人になってから矯正するなら、今やらなくても良いのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、子供の時期(第1期治療)に矯正治療を行うことには、大人になってからの矯正(第2期治療からのスタート)では決して得られない、非常に大きなメリットが存在します。それは、子供の旺盛な「成長力」を味方につけられるということです。大人になると顎の骨の成長は完全に止まって固まってしまうため、後から顎の大きさを変えることは外科手術以外では不可能です。しかし子供の時期であれば、以下のような素晴らしいメリットを享受することができます。
- 将来、永久歯を綺麗に並べるために「健康な歯を抜歯する(抜く)」リスクを大幅に減らすことができる
- 上下の顎の骨格的なバランス(出っ歯や受け口)を根本から改善し、正しい顔の骨格形成を促せる
- 指しゃぶりや口呼吸、舌の癖といった、歯並びを悪化させる「悪習癖(あくしゅうへき)」を早期に治せる
小児矯正の最大のメリットは、「将来の抜歯リスクを減らせる可能性が高い」という点です。現代の子供は食生活の変化などで顎が小さく成長する傾向があり、大きな永久歯が並びきるスペースが足りずにガタガタ(叢生:そうせい)になってしまうことがよくあります。大人の矯正でスペースを作る場合、健康な永久歯(小臼歯など)を2〜4本抜歯しなければならないケースが頻発します。しかし、第1期治療で「床矯正(しょうきょうせい)」などの拡大装置を使って顎の骨を正しいサイズまで広げておくことで、永久歯が自然に生え揃うための十分なスペース(駐車場の広さ)を確保でき、結果として「非抜歯(歯を抜かない)」で治療を完了できる可能性が飛躍的に高まります。また、歯並びを悪くする根本的な原因である「お口のぽかん空き(口呼吸)」「指しゃぶり」「舌を前に出す癖」などを、専用のトレーニングやマウスピース装置を使って幼少期のうちに改善できることも重要です。筋肉や骨格が柔軟な子供のうちに正しい口腔機能(呼吸や飲み込み方)を獲得しておくことは、一生涯の全身の健康にも直結する非常に価値のある治療と言えます。
将来のコンプレックスを予防し、虫歯・歯周病リスクを下げる心理的・医学的効果
小児矯正は、単に「見た目を綺麗にする」という目的だけでなく、お子様の健やかな心と身体の成長をサポートするという深い意義を持っています。思春期を迎える頃には、自分の容姿に対する意識が急激に高まります。その時期に歯並びが悪いと、「人前で笑うのが恥ずかしい」「口元を見られたくない」という強いコンプレックスを抱え、内向的な性格になってしまうケースが教育や心理の現場でも指摘されています。早いうちに歯並びを整えてあげることは、お子様の自信を育て、積極的な明るい人格形成を助ける「親から子への素晴らしいプレゼント」となります。
- 思春期前に歯並びを整えることで、見た目に対するコンプレックスを防ぎ、自己肯定感を高められる
- 歯並びが綺麗になることで歯磨きがしやすくなり、将来の虫歯や歯周病のリスクを劇的に下げられる
- 食べ物をしっかりと噛み砕けるようになる(咀嚼効率の向上)ため、胃腸への負担が減り、健康な発育を促せる
歯並びが重なり合ってデコボコしていると、どうしても歯ブラシの毛先が届かない死角(汚れの溜まり場)ができてしまいます。親御さんがどれだけ丁寧に仕上げ磨きをしてあげても限界があり、そこにプラーク(歯垢)が蓄積して、若いうちから複数の虫歯ができたり、大人になってから重度の歯周病で歯を失ったりするリスクが格段に高まります。小児矯正で歯列を整えることは、この死角をなくし、生涯にわたってお口の中を清潔に保ちやすい「自浄作用の高い環境」を作り出すという究極の予防歯科でもあります。また、上下の歯が正しく噛み合うことで、食べ物をしっかりと細かくすり潰せるようになり、成長期に必要な栄養素の吸収効率が良くなるほか、顎の筋肉が均等に発達して顔の歪みを防ぐ効果も期待できます。(※治療によるコンプレックスの解消度合いや、顎の成長発育のコントロール結果には、遺伝的な要因も含め個人差があります)。
小児矯正のデメリット・注意点と、失敗しないための親のサポート体制
装置の装着や歯磨きの徹底など、本人と「親の協力」が絶対に必要になる
小児矯正(第1期治療)はメリットが非常に大きい一方で、治療を成功させるためには大人以上に乗り越えなければならないハードルが存在します。その最大のデメリットであり注意点が、「お子様本人のモチベーション」と「親御さんの徹底した管理・サポート」がなければ、全く効果が出ずに失敗に終わってしまう可能性が高いという点です。大人のように「自分の意志で綺麗になりたい」というモチベーションが子供にはまだないため、なぜ装置をつける必要があるのかを根気よく教え、毎日の習慣として定着させる家族の協力が不可欠となります。
- 「取り外し式の装置(拡大床やマウスピース)」の場合、決められた装着時間を守らないと歯や顎は動かない
- 装置を入れていると汚れが溜まりやすいため、親御さんによる毎日の丁寧な「仕上げ磨き」が必須となる
- 装置を嫌がって外してしまったり、紛失・破損してしまったりするトラブルが起こりやすい
小児矯正の第1期治療では、患者様自身で取り外しができる「拡大床(かくだいしょう)」や「プレオルソ」といったマウスピース型の装置を使用することがよくあります。これらの装置は、食事や歯磨きの時に外せるため衛生的である反面、「1日10時間〜14時間以上(主に就寝時や自宅にいる時間)装着する」という歯科医師との約束を厳守しなければ、顎の骨は全く広がってくれません。「痛いから」「違和感があるから」と子供が勝手に外してしまい、親が見ていないところで装置をつけていない時間が続けば、治療は全く進まず、治療期間だけが徒らに延びてしまいます。また、固定式の装置(ワイヤーなど)を使用する場合は、装置の周りに食べかすが極めて溜まりやすくなるため、虫歯のリスクが急激に跳ね上がります。子供自身の歯磨き技術だけでは到底磨ききれないため、毎晩必ず親御さんが専用の歯ブラシやフロスを使って、時間をかけて丁寧に仕上げ磨きを行ってあげるという「親の労力」が必要不可欠です。小児矯正は歯科医院に任せきりにするのではなく、ご家庭と歯科医院の二人三脚で進めるプロジェクトであることを覚悟しておく必要があります。
治療期間が長くなりやすく、大人になっても「第2期治療」が必要になるケースがある
小児矯正を検討する際、多くの親御さんが誤解しやすいポイントがあります。それは、「第1期治療(子供の矯正)をすれば、それで矯正治療がすべて完璧に終わる」と思い込んでしまうことです。確かに、第1期治療で顎を広げて永久歯が生えるスペースを作ることで、歯並びは劇的に改善します。しかし、第1期治療はあくまで「顎の成長のコントロール」と「土台作り」がメインであり、1本1本の歯の向きや微細な噛み合わせのズレまでを完璧にミリ単位で整えることはできません。そのため、永久歯がすべて生え揃った後に、大人の矯正と同じワイヤーやマウスピースを使った「第2期治療(本格矯正)」が追加で必要になるケースが非常に多いというデメリットを理解しておく必要があります。
- 顎の成長が完了するまで経過を観察するため、トータルの通院期間(管理期間)が数年単位と長くなる
- 第1期治療が成功しても、最終的な噛み合わせの仕上げのために中学生以降で「第2期治療」が必要になることが多い
- 遺伝的な骨格の成長(下顎が後から急激に伸びるなど)によっては、予想通りに治療が進まないことがある
小児矯正は、お子様の顎の成長と永久歯への生え変わりのスピードに合わせてゆっくりと進めていきます。そのため、6歳で治療を始めた場合、すべての永久歯が生え揃い顎の成長が落ち着く中学生(13〜15歳頃)まで、長期間にわたって数ヶ月に一度の定期健診(経過観察)に通い続けなければなりません。親御さんにとっても通院の送迎などの負担が長期間続くことになります。そして、永久歯が生え揃った段階で、「より完璧な歯並びや噛み合わせを追求したい」となった場合には、第2期治療へと移行します。ただし、第1期治療でしっかりと土台(顎の広さ)を作っておけば、第2期治療では「抜歯を回避できる」「治療期間が大幅に短くなる」「後戻りしにくくなる」といった絶大なメリットが得られるため、決して第1期治療が無駄になるわけではありません。治療のゴールをどこに設定するのか、第2期治療に移行する可能性とその際の追加費用等について、初回のカウンセリング時に歯科医師としっかりとすり合わせを行っておくことが重要です。
保険適用外(自由診療)のため費用が高額になる(医療費控除の活用)
子供の医療費は多くの自治体で助成制度(医療費無料など)がありますが、残念ながら「歯列矯正」に関しては、その大部分が適用外となります。日本の公的医療保険制度において、矯正治療に保険が適用されるのは「唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)」などの先天的な特定の疾患や、顎の骨を切る外科手術が必要な「顎変形症(がくへんけいしょう)」と診断されたごく一部の極端なケースに限られます。そのため、一般的な歯並びの乱れ(叢生や出っ歯など)を治すための小児矯正は、原則として全額自己負担の『自由診療(自費診療)』となり、家計にとって決して小さくない経済的な負担となります。
- 一般的な小児矯正(第1期治療)の相場は、およそ30万円〜50万円程度と高額になる
- 第2期治療に移行する場合は、追加で費用(大人の矯正費用との差額など)が発生することが多い
- 「医療費控除」を確定申告で申請することで、支払った税金の一部が還付され実質負担を減らせる
小児矯正(第1期治療)にかかる費用の相場は、使用する装置の種類(床矯正、ワイヤー、マウスピース型など)や歯科医院の料金体系によって異なりますが、概ね30万〜50万円程度が一般的です。もし将来的に第2期治療へ進むことになった場合、多くの歯科医院では「大人の矯正の総額(約70〜100万円)から、すでに支払った第1期治療の費用を差し引いた差額」を追加料金として設定していますが、この料金システムは医院によって大きく異なるため事前の確認が必須です。また、毎回の通院のたびに調整料や観察料(数千円程度)が別途かかるかどうかも、トータルの費用に影響します。費用負担は大きいですが、大きな救済措置として「医療費控除」の制度があります。子供の成長発育を阻害する噛み合わせの異常を治すための小児矯正は「医療目的」として認められることがほとんどであり、1年間にかかった矯正費用(通院のための交通費なども含む)を確定申告で申告することで、所得に応じて税金が戻ってきます。領収書は必ず大切に保管し、制度を賢く活用して少しでも経済的負担を軽減させましょう。
まとめ
子供の顎の成長力を利用できる「小児矯正(第1期治療)」は、将来の抜歯リスクを減らし、正しい骨格の形成とコンプレックスの解消をもたらす、一生に一度しかできない非常に価値の高い治療です。しかし、装置の装着時間を守るというお子様本人の協力と、虫歯を防ぐための親御さんの徹底したサポートが成功の必須条件となります。また、自由診療による高額な費用や、長期間にわたる通院、第2期治療が必要になる可能性といったデメリットもしっかりと理解しておく必要があります(※顎の成長の度合いや治療の進み具合には個人差があります)。「始めるべき最適なタイミング」を逃さないためにも、永久歯の生え変わりが始まる6歳前後を目安に、まずは信頼できる歯科医院や矯正専門医で相談や精密検査を受けてみることをお勧めいたします。
参考サイト
矯正歯科治療について|公益社団法人 日本矯正歯科学会
子どもの歯並びと矯正 – 日本小児歯科学会
歯並び・かみ合わせ – テーマパーク8020 – 日本歯科医師会
医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁